【金 賞】・・・ 大切な自転車  岡 田 起 弥   愛知県


 僕は聴覚に障害を持つ学校に通っています。すなわち聾学校の中学部の二年生です。
 僕が初めて自転車と出会ったのは、小学部一年生の時でした。母に真新しい自転車を買ってもらいうれしくて仕方たがなかったことを覚えています。しかし、僕はその時まだ自転車に乗ることが出来ませんでした。自転車購入から、父に後ろを持ってもらいこぐ練習を始めました。
 ハンドルをまっすぐに持って、ペダルをこぐタイミングが分からず、すぐバランスを崩してしまい父に「がんばれ。」と何度も何度も手話で励まされました。数日練習した後、父は手を離して僕一人で乗る練習に入りました。転んでも起き転んでも起き、バランスをとって乗れるようになったは二週間ぐらい後だったと思います。
 真新しい自転車にはたくさんの傷がつき、真新しさはすぐになくなりました。
 雨の日もカッパを着て練習しました。休日には父と一緒に家の近くの公園で何回も練習し、僕がペダルをこぐのを見て父は微笑んでいました。
 中学部になって、自宅から約四キロの道のりを自転車通学できるように学校に頼みました。僕は聴覚に障害を持つということから学校では大変心配してくれましたが、交通ルールを守るということと、自分自身が健聴の人以上に気をつけるからと許可をいただくことが出来ました。この時はとってもうれしかったです。
 いよいよ自転車で学校への通学。やわらかい風を受けてペダルを踏む春。太陽のぎらぎら輝く中、びっしょりと汗をかきながらペダルを踏む夏。イチョウの黄色い葉を踏みながらペダルを踏む秋。肌をさすような冷たい風に向かってペダルを踏む冬。四季を体にまともに受け、耳の不自由さを忘れさせてくれる自転車。僕はこんな自転車が大好きです。
 でも音のない僕には、危険がつきものです。自動車の警笛の音や、後ろから近づいてくる車の音は僕にはわかりません。だから目で一生懸命確認することが欠かせません。
 危険と隣り合わせのような僕ですが。肌に感じる風を切って走る自転車がたまらなく好きです。この様な自転車に乗っている自分を詩に表現してみました。
    「ペダルをこぐ」
  ペダルをこぐ。風がぼくの脇をすり抜ける。
  ペダルをこぐ。季節が僕の横を過ぎ去る。
  ペダルをこぐ。建物が僕に笑いかけてくる。
  ペダルをこぐ。音のないことを忘れる。
  ペダルをこぐ。僕の周りのものすべてをが輝いて見える。
 自転車に乗ることによって、僕の世界が広がり感動も与えられました。僕には、自転車は大切な大切な宝物。これからも長い僕の人生、ペダルを踏むように休むことなく、前へ前へと夢と希望に向かって大切な自転車と共に歩み続けて行きたい思います。