【銀 賞】・・・パンク修理で学んだこと 吉 野 賢 譜 静岡県
「ザー、ザー、ザー。」
突然、激しい雨が降り出した。僕は一生懸命ペダルをこいだ。まだ家まで遠い。(困ったなあ。)と思いながら必死でこいだ。もう体はびしょ濡れ、おまけに寒くなってきた。しばらして、(あれ。)と思った。ハンドル操作がうまくいかない。ペダルが重い。前のタイヤがへこんでいる。(こんな時にパンクかあ。)と思って、自転車を降りて確かめた。やっぱりパンクだった。自転車を引いて歩くことにした。二月の雨は冷たかった。
そんな時、「ちょっとどうしたの、こんな雨の中。風邪を引くわよ。雨やどりでもして行きなさい。」とおばあさんのやさしい声が聞こえた。「じゃー、すみません。」ぼくは、素直に家の軒下を借りた。「家までどのくらいあるの。」「あと二、三キロメートルぐらいかなあ。」おばあさんは、タオルを差しのべながら、「そう遠いわね。長く続く雨じゃないから。やむまでここにいなさい。」
ぼくは、嬉しくなり、中学へ電車通学をし、駅まで自転車を使っていることなどを話した。でも心の中では(明日、どうしようかなあ。)と、心細くなってきた。そんな様子を察してか、おばあちゃんは家の中に入り、おじいさんを連れてきた。「どうしたパンクか。」と言いながら、自転車に近づきタイヤを見て、「これじゃー、走れんのう。」と言いながら、家の中に戻り、重そうな箱を持ってきた。
手慣れた手つきで、くぎ抜きやドライバーを使って、タイヤをはずし、中のチューブを取り出した。「おーい、洗面器に水をくんで来てくれ。」の声にぼくはとっさに言った。「ぼ、僕がくんできます。」
おじいちゃんは、洗面器の水の中にチューブ少しずつ入れて、小さなあわがぶくぶく出てくる場所を見つけた。チューブを取り出し、布で拭いた。おじいさんは、自分の自転車のタイヤをはずして、チューブをはさみで切って、僕のチューブにゴムのりで貼った。
「おじいさん、自転車に乗れなくなるよ。」僕は心配して言うと、おじいさんは言った。「いいんだよ。わしは年でもう自転車に乗れなくなったから。若い者に役に立つと嬉しいよ。でも、君の自転車は乱暴に乗っているね、物は大切に使わないとな。」
僕は、感謝の気持ちと共に今までの使い方も反省した。雨も上がってきたので、頭をペコンと下げて、「ありがとうございました。」と言って家に向かった。おじいさんのチューブには修理の跡がいっぱいあるのを思い出し、おじいさんの自転車に対する思いに涙が出そうになった。
僕は、(これから大切に乗ろう。)と、雲間の青空に向かって心に刻んだ。